グゴー、ガゴー
今日も西の谷の洞窟に、地鳴りのようなイビキが響き渡ります。
「お師匠さま、お師匠さまったらぁ。起きてくださいよぉ。」
弟子のレッドは、仰向けで寝ているルウをなんとか起こそうと、躍起になっていました。
「う~ん、ムニャ、ムニャ…もう、食べられない…」
レッドは肩をすくめると、天井を仰ぎました。
――はあ~、この人、寝てばかりなんだよな~。この人に弟子入りしたのは間違いだったかな…
レッドは客人のほうを振り返ると、己の師を恥じるように言い訳をしました。
「すみませんねぇ、師匠は最近、お疲れみたいで…いつもはこんなんじゃないんですよぉ~」
仰向けで腹を見せたまま寝ている師匠は、見ようによってはお皿に載せられた七面鳥のように見えます。
――ったく…威厳もクソもありゃしない。
心の中の悪態が聞こえたのか、ルウがレッドに背を向けるように寝返りを打ちました。
「う~ん、もう少し寝かせてくれ。最近、いくら寝ても、眠くてしかたがないんだ…」
「何を言ってるんですか、爺むさい…」
――たしかに、ジジイだけど…そこまで老けこむ年じゃないだろ…
ミニチュア・ドラゴンのレッドは呆れたように溜息をつきました。それでもなんとか師匠を起こそうと、自分の何倍も大きな体を懸命に揺さぶります。
「師匠!師匠!起きてくださいよ!お客様ですよ。もうっ!師匠ってばっ!」
やっとのことで起きたルウは、薄暗い洞窟の中に佇む美女を目にして固まりました。
――なぜ、こんな辺鄙な場所にこんな美女がいるのだ…夢でも見ているのか?それとも幻覚か…
ごしごしと目を擦りながら、ルウは何度か瞬きをしました。しかし、目の前の美女は消えてなくなりません。それどころか、ルウに向かって微笑んでさえみせるのです。薄暗い洞窟の中で、美女の周りだけが白く光って見えました。
――夢ではないようだ…
ルウの後ろからレッドがそっと囁きました。
「お師匠さま、ヨダレが垂れています。」
弟子に指摘されて、ルウは慌てて口元を拭いました。どうやらイビキだけではなく、ヨダレも垂らしながら寝ていたようです。とんだ醜態を晒してしまいました。
ルウは美女にバレただろうかと、こっそりと美女の様子を窺がいましたが、美女は気が付いていないようで、優しく微笑んでいます。
――美人というのは、おっとりとしたものだな…
起きてから、まだ一言も口をきいていないにもかかわらず、ルウの頭の中には様々な思いが忙しく駆け巡っていました。
「コホンッ」
呆けている師匠を見るに見かねて、ルウの肩口にとまっていたレッドが咳払いをしました。
「お師匠様、この方はエラム国の6番目のお姫様のシャーレイ様ですよ。師匠に一目会いたいと、わざわざここまで飛んで来てくださったのです。」
「奇特な方もいらっしゃるものですねぇ」という言葉がつい口から出そうになって、レッドは慌てて口をつぐみました。
「せっかく訪ねてきてくださったのですから、失礼のないようにちゃんとご挨拶してくださいね。」
レッドにそう言われて、ルウはむっとしました。
「子供ではないのだから、そんなこと、言われなくてもわかっとるわい!無駄なおしゃべりばかりしていないで、お客様にお出しするお茶でも用意してこいっ!」
ルウは短い前腕を腕組みすると、おしゃべりな弟子をジロリと睨みつけました。
「はい、はい、わかりましたよ。おお、こわい、こわい。」
「『はい』は一度でいいっ!一度でっ!」
師匠に対する尊敬の念が微塵も感じられない様子に、ルウはフンッ!と鼻から勢いよく息を吐き出しました。
「あ~~れ~~」
ルウの鼻息で、レッドはあっという間に洞窟の奥まで飛ばされてしまいました。
「あ~、コホン!」
うるさい弟子がいなくなったところで、ルウは改めて美しい客人に向き直りました。
「お姫様、こんな辺鄙な所によくぞお出でくださいました。お疲れでしょう。大したおもてなしもできませんが、今、レッドがお茶を用意しております。こんなむさ苦しい所でよかければ、お茶でも飲んでいってください。」
「ありがとうございます。」
ルウに声を掛けられて、白竜の姫君ははにかんだ笑顔を見せました。姫君の可憐な笑顔にルウは一瞬、瞬きを忘れました。年甲斐もなく、顔が赤くなったのが自分でもわかります。
――なんとまあ、可憐な…
ルウは咳払いをすると、赤くなった顔を誤魔化しました。
「ところで、こんな遠くまで飛んで来てくださったのには、何か特別な理由でもおありかな?わしに何かご用でも?」
「あの…わたくし…」
姫は口ごもりました。
「ルウ様…」
「は、はいっ」
涼やかな声で名を呼ばれて、ルウは年甲斐もなく声が上擦ってしまいました。ミルクように白い肌、愛らしい目元、優しい声…亡き母の面影にもよく似た姫の美しさに、ルウはうっとりと目を細めました。
――う~む…わしがもう少し若ければ…
ルウの思考を遮るように、姫が口を開きました。
「あの、わたくし…小さい頃からあなたのお話を聞いて、ずっと憧れておりました。エラム国ではあなた様はヒーローです。是非、一度お会いしたいと思い続けておりました。本物のルウ様にお目にかかれて感激ですっ!」
姫は潤んだ瞳でルウを見つめました。
「いや、いや、お嬢さん、何かの間違いではなかろうか?わしは有名になるような事は何もしておらんのだが…」
ルウは慌てて顔の前で手を振りました。若い娘に尊敬の眼差しで見られるのは悪いものではありませんが、勝手に勘違いされて後でがっかりされるのも嫌です。
ルウには若い娘のキラキラした眼差しを受け止める自信がありませんでした。
しかし、白竜の姫君はルウの戸惑いには気が付かないようで、興奮した面持ちで言葉を続けました。
「ルウ様!ルウ様はご存じないかもしれませんが、ルウ様とデストロン国との闘いは本にもなっているのでございますよ!数年前には、映画化もされました!貴方様はわたくしにとっては、本物のヒーローなのでございます。ほら、このキーホルダーも映画館で買ったものでございます。」
姫君は自分のバッグを指さしました。
――えっ?!これは俺なのか???
見ると、姫のバッグにはやたらと男前の竜のキーホルダーが付けられていました。その横にはやけに可愛らしくデフォルメされたルウの缶バッジも付いています。
――この翼の形、この色は紛れもなくわしのようじゃが…はて、なんと答えたものか…
ルウは「むむむ」と唸りました。
――それにしても、デストロン…デストロン…どこかで聞いたことのある名前だな…
ルウは懸命に記憶の糸を手繰り寄せました。
なにしろ、五千年も生きているのです。いろいろありすぎて、昔のことはすぐには思い出せません。
「わたくしは貴方様と勇者リューイ様のお話が大好きで、子供の頃、いつも寝る前に本を読んでもらっていました。」
「リューイ」と聞いて、ルウの中で眠っていた記憶が呼び覚まされました。五千年前に1年ほど一緒に暮らした人間の子供。あの子供の名前は、確かリューイだったような…今ではリューイの顔の輪郭すら思い出せませんが、あの家で暮らしていたとき、毎日が楽しかったことだけは覚えています。ルウに「ミュウ」という可愛らしくも恥ずかしい名前を付けてくれたのも、あの子供でした。あの頃は楽しかったのう。わしも純粋だった…
ルウはしばし、思い出に浸りました。
「おや、なんですか、この雰囲気!なんだか、いい感じじゃないですか。お師匠さまも隅に置けませんね~、この~、この~。」
お茶を淹れて戻ってきたレッドは、二人の間に流れる微妙な空気を察して、すかさず茶々を入れました。
ゴンッ!
レッドの頭にルウの鉄拳が振り下ろされます。
「こらっ!姫に失礼なことを言うな。だいたいな、レッド!おまえは日頃からいちいち一言、多いのじゃ。少しはこの姫を見習うがよい。見ろ、この方はこんなにも礼儀正しく、控えめで――」
「痛いなぁ~、もう、お師匠さまは乱暴なんだからぁ。殴らなくってもいいのに~。」
レッドは痛む頭を擦りながら、ぶつぶつと文句を言いました。そんな弟子は放っておいて、過去の記憶が蘇ったルウは、遠くから来た姫のために、姫が喜びそうな思い出話をいくつか披露することにしました。
しかし、その前にお茶を一服。ルウは香草を煮出したお茶をズズズッと啜りました。鼻と口から香気が抜けていき、頭がすっきりしました。
「お嬢さん、昔の話がお聞きになりたいかな。」
白竜の姫君は大きく頷きました。
「はいっ!もちろんっ!」
姫は身を乗り出しました。
「さて、どこから話そうか……」
一時間後。
「ええっ!そうなんですか?!知らなかった!」
「そう、そう。それでな――」
二人は今日、初めて会ったとは思えないほど、打ち解けていました。姫の言葉遣いもいつの間にか若い娘のそれに変わっていました。
「――わしはガッコウへ行くことにしたのだ。」
「えっ?ガッコウって、あのガッコウですか?」
姫が聞き返すと、ルウは胸を張って答えました。
「そうだ、あのガッコウだ。そこでわしは人間の子供たちに混ざってジュギョウを受けたのだ。」
「グッ」
隣で聞いているレッドの喉から、奇妙な音が漏れました。見ると、レッドは口を押えたまま、肩を震わせています。
「なんだか、とっても楽しそう。」
「ああ、とても楽しかった。」
ルウは姫の言葉に頷きました。
「人間の子供といっても、まだ幼なくて、碌な教育も受けていないゆえ、山猿のような連中だったがのう。」
その山猿のような連中と夢中になって遊んでいたことは、姫には内緒です。姫はガッコウの様子を思い浮かべたのか、クスクスと笑いを漏らしました。
「子供たちもみんな、わしのことをミュウ、ミュウと呼んで――」
「グフッ」
レッドの喉から、またしても奇妙な音が洩れました。
「ミュウ?」
姫が不思議そうな顔をしました。
「ああ、わしの当時の呼び名だ。真名を人間に教えることはできなかったので、リューイが新しい名前をつけてくれたのだ。」
「ずいぶんと可愛らしいお名前を付けてもらったのですね。」
姫は少し首を傾げながら、優しく微笑みました。姫と目が合ったレッドは、姫が笑いを堪えているのがわかりました。
「プッ!」
レッドは堪らず、吹き出しました。ずっと笑いを堪えていたのでしょう。笑い出したら止まりません。レッドは空中でお腹を抱えながら笑っています。見ると、姫も下を向いたまま、笑っているようです。
「ギャハハハ!もうダメですぅ!可笑しくって、我慢できないぃ~。ヒ~ヒ~」
「さっきから聞いていれば、ガッコウへ行ったとが、ミュウと呼ばれていたとか、お師匠様に似合わなすぎですよぉ。ギャハハハ。」
ルウはむっとしました。
――我が弟子ながら、本当に失礼なやつだ。
「ガッコウへ行ってなにが悪い!それにな、ミュウという名だって当時のわしにはぴったりの名前だったのだ!」
「ギャハハハ、ヒー、ヒー、笑いすぎて、お腹が痛いですぅ。これ以上、笑わせないでくださいよぉ。」
「ウフフフ」
とうとう、姫までもが一緒になって笑い出しました。若い娘の明るい笑い声に、暗い洞窟の中が一気に華やぎます。
「当時のルウ様はとても可愛らしくて、そのお名前がとても似合っていたと思いますわ。」
へそを曲げたルウに、姫はとりなすように優しい言葉を掛けてくれました。
「ああ、そうだとも。あの頃はわしも可愛らしかったのだ。体の色も今のような灰青色ではなく、薄い水色だったしのう。」
ルウの言葉に姫はニコリと微笑みました。
「それからな、ユキガッセンというものもしたぞ。あれは――」
姫のたった一言で気分が再上昇したルウは、その後も上機嫌で姫を相手にしゃべり続けました。
さらに1時間後。
笑いっぱなしの姫は、目尻に溜まった涙を拭いました。
「ルウ様って本当にお話が上手ですこと!わたくし、こんなに笑ったのは初めてです。本当に、お会いできて良かった!」
ルウは満足そうに微笑みながら、しゃべり疲れた喉をお茶で潤しました。
「ルウ様は伝説になられたぐらいのお方ですから、少し近寄り難いのかもと思っていましたが、実際にお会いしてみれば、少しも気取ったところがなく、親しみやすくて、お優しくて、なんて素敵な方なんでしょう。急に押し掛けてしまったのに、嫌な顔もされず、いろいろと楽しいお話を聞かせてくださり、本当にありがとうございました。」
姫はペコリと頭を下げました。
「いや、いや、礼にはおよびません。わしも久ぶりに楽しい時間を過ごすことができました。」
その言葉に微笑み返した姫は、急に真面目な表情になりました。
「そろそろ、お暇しなくてはなりませんが、最後に一つ、真面目な話をしてもよろしいでしょうか?」
「なに?真面目な話とな?」
――はて?何じゃろ?わしが調子に乗りすぎたので、がっかりしたとか?
ルウは居住まいを正しました。
「実はわたくし、お見合いが厭で父の所から逃げてきたんです。」
「なんと、お見合いとな!」
ルウは驚きました。
「そなたは何歳なのだ?」
「今年で700歳になります。」
姫は恥ずかしそうに答えました。
「700歳とな!若いのう!しかし、700歳では結婚にはちと早すぎんかのう?まだ、結婚したくないから逃げ出してきたのか?」
「いいえ、そういうわけではないんです。結婚に対する憧れは強いほうなので、結婚自体は嫌ではないんです。ただ…お相手の方が土竜で…」
姫はそこで言葉を濁しました。
「なんと、土竜とな…」
ルウは姫を気の毒に思いました。外見で人を判断するのはいけませんが、ほっそりとした姫と土竜が並んでいるところを想像すると、どうしても気の毒に思えてしまいます。しかも、土竜は頑固で気難しく、捻くれ者が多いのです。
――お気の毒じゃ…。明るく振舞ってはいるが、こんな最果ての地まで飛んでくるくらいじゃ。よほど嫌だったのだろう。しかし、父君の決めたこととなるとなぁ。わしが口出ししてよいのものか。困ったなぁ…
ルウは言葉に詰まってしまいました。おいそれと無責任な発言はできません。
「お気持ちはよくわかるが、親御さんも姫のためを思って、この縁談を決めたのだろうし。今では竜の数も随分、減ってきているがゆえに、異種間結婚もやむを得ないのではないか?」
ルウがそう言うと、姫はハッとしたように顔を上げました。
――ルウ様がそんなことを言うなんて…ルウ様ならきっと、わたくしの気持ちをわかってくださると思ったのに…
先程までの会話で、すっかり分かり合えたと思っていた姫は、悔しそう唇を噛み締めました。
「そんなことは重々、承知しております。けれども、けれども…わたくし、土竜だけは厭なんです!」
姫は思い詰めたように、ルウを見詰めました。
――そんな目で見ないでくれ。わしは何もしてやれん…
姫の視線の強さにたじたじとなったルウは、目を逸らしました。ついでに話も少し逸らすことにします。女性慣れはしていませんが、そういうところだけは年の功で、世間慣れしているルウでした。
「そう言えば、そなたは白竜なのに翼にカギ爪が付いているのじゃな。珍しのう。」
話題が変わったことで、強張っていた姫の表情が少し和らぎました。
「はい、わたくしたち一族の中にはときどき、わたくしのように翼にカギ爪を持った者が生まれるのです。父は、わたくしが特別な翼を持っているものだから、高慢になっているのだと責めるのですが…でも、わたくしは翼のない土竜を見下しているわけではなくて…」
姫は今にも泣き出しそうになるのを、ぐっと堪えました。
「ただ…ただ..一緒に空を飛べる方が好きなだけなのです。」
――ふむ、ご両親の希望と自分の素直な感情の間で板挟みになっておられるのだな…優しいご気性ゆえ、ご両親を悲しませるのも辛いのだろう。
年配者として若い娘の幸せを願いつつも、一方で、先程からルウの頭の中をグルグルと駆け巡っている思いはただ一つ。
――残念じゃ。わしがもう少し若ければ……
ルウは慌てて首を振りました。
――いかん、いかん!わしは何を考えているのだ!いくらなんでも歳の差があり過ぎるぞっ!
ルウは心の中で自分を諫めました。
「そうか、姫は空を飛べる者が好みなのじゃな。他に何か条件はあるかな?」
ルウは知り合いの若い竜たちの顔を思い浮かべました。
――条件に合う者がおれば、紹介しても良いのじゃが…
「はい、先程も申しましたように、一緒に空を飛べて」
「ふむ」
「気取らなくって」
「ふむ」
「年上で」
「ふむ」
「できれば、白竜の血を引いていて」
「ふむ」
そこまで聞いて、ルウははたと膝を打ちました。
「なんと!まるでわしではないか!」
ルウの言葉に、姫は顔を赤らめて俯きました。
「ヒュ~♪」
それまで黙って二人の会話を聞いていたレッドが、冷やかすように口笛を吹きました。
「お師匠さまもまだまだ捨てたもんじゃありませんねぇ。こんな若い娘に告られるとは!」
「こ、こらっ、レッド!勘違いするでない!姫は、ただ単に結婚相手の条件を挙げられているだけじゃ。わしのことを言っているわけではない。」
レッドに言った言葉は半分、自分に言い聞かせるための言葉でした。
――勘違いをしてはいかん。こんな若くて綺麗なお嬢さんがわしのことを好いてくれるわけがない…見ろ、このぴちぴちのお肌を!わしのお肌とは雲泥の差だ。こんなコがわしのことを好いてくれるだなんて、考えるほうがどうかしている。
ルウの頭の中を様々な考えが、もの凄い勢いで流れていきます。
――しかも、成人しているとはいえ、若すぎて、なにやら後ろめたい気分になるし…いや、いや、後ろめたいも何も、そんなことがあるわけもない…
否定したり、肯定したり、気分が上がったり、下がったり、自問自答を繰り返しているうちに、ルウは頭は爆発しそうになりました。
――ああ、もうっ、じれったいっ!これだから、師匠はいつまで経っても独身なんだよっ!こんなチャンス、二度とないのに!
煮え切らないルウの態度に業を煮やしたレッドは、後ろから師匠の広い背中に跳び蹴りしたくなりました。
こう見えても3頭の仔の父親であるレッドには、これを逃したらルウは一生結婚できないことがよくわかりました。
――まったく…ここは俺が一肌脱ぐしかないな…
レッドは数秒間、黙って師匠の顔を眺めると、おもむろに口を開きました。
「そうですか?お師匠様だって、本当はお姫様のことが気に入っているんじゃないんですか?俺にはそんなふうには見えますけどね。それに、ねえ、お姫さん、結婚相手の条件って、そのまんま、師匠のことを指してくるんですよね?」
「こらっ、レッド!何を言うのじゃっ!」
慌ててレッドを遮ろうとしたルウの目の隅で、姫は小さく頷きました。
――えっ?!えっ?!
驚きのあまり、事の次第がすぐには理解できないルウでしたが、代わりにレッドがすぐさま応えてくれました。
「ヒュ~ヒュ~♪」
レッドが再び、二人を冷やかします。
「だけど、お姫さま、こんなジジイでいいんですか?師匠は五千歳を超えてますよ。お金もないですよ。貴女ぐらい綺麗だったら、相手はより取り見取りでしょうに。」
レッドが念を押すと、恥ずかしそうに俯いていた姫が顔を上げました。
「わたくしにとって、ヒーローはただ一人でございます。」
「ヒュ~!」
驚きと称賛の口笛がレッドの口から洩れました。
「いや、お見事!この勝負、お姫さんの一本勝ち!」
それを聞いたルウは参ったというように、額に手を当てました。
――ああ、降参じゃ!
「良かったですねぇ~、お師匠さまぁ。やっと、お師匠さまにも春が来ましたねぇ。」
姫につられて赤くなったルウを、レッドは遠慮なく冷やかすのでした。
それから数か月後、ルウが若くて綺麗なお嫁さんをもらったという噂が、西の谷に広がりました。二人はいつも西の山の上を、手をつないでランデブーしているとか、おはようとおやすみのチューは欠かさないらしいとか、寝てばかりいたルウが急に若返ったとかetc. その噂を聞いて、婚活に苦労している若い竜たちが大層、羨ましがったのは言うまでもありません。
めでたし、めでたし。
あとがき
五千年後のミュウの歳の差婚のお話でした。ミュウの一人称が「ボク」から「わし」に変わっていますし、人格(竜格?)も変わり過ぎですね (;^_^A)。ちょっとやり過ぎた感がありますが、ご容赦くださいませ。
小さい読者のみなさん、今回は大人の人向けのお話です。ごめんなさい。「婚活」とか、わからない単語がいっぱい出てきましたね(笑)。わからない言葉があれば、お父さんやお母さんに聞いてくださいね。
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