「あらっ、三人とも寝ちゃったのね。」
リューイが目を覚ますと、お母さんが足元に立っていました。リューイとフューイとミュウは、三人で一緒に遊んでいるうちにいつの間にか眠ってしまったようでした。
お母さんはミュウにもたれかかって眠っていたフューイを、起こさないようにそっと抱き上げました。
「ア~」
抱き上げられたフューイは、むずがって体を捩ると、ミュウのほうへと手を伸ばしました。
「フューイはミュウと一緒に寝ていたいってさ。」
「はい、はい、良い子ね。」
お母さんはそれには答えず、フューイをあやしながらドアのほうへ向かいました。
「ア~」
お母さんに抱きかかえられたまま、フューイはリューイやミュウと一緒にいたいとでも言うかのように、二人のほうへ手を伸ばしています。
それを見たリューイは
「そうだ!ミュウ、フューイと一緒に寝てあげたら?」
ほら、ほら、とリューイが冗談混じりにミュウのお尻を押して、お母さんのほうへ行かせようしました。それを見たお母さんがとんでもないと言わんばかりに頭を振りました。
「やめてちょうだい。ベッドがドラゴン臭くなるから。」
お母さんにはそう言い放つと、固まっているミュウとリューイを残したまま、さっさと下へおりて行ってしまいました。
「なんだよ…それ…」
しばらくして、リューイは口の中で小さく呟きました。
「ドラゴン臭いって、なんだよっ!」
今度はもう少し大きな声で言ってみました。じわじわと怒りが込み上げてきます。だって、あまりにもあまりな発言ではありませんか。次第に腹が立ってきたリューイは、今更ではありますがと叫びました。
「お母さんのバカ~!」
「ギャウゥゥゥ!」
ミュウも声を合わせて叫びます。
「ミュウは毎日、お風呂に入っているんだぞ~!臭くなんかないぞ~!」
「ギャウ!ギャウ!」
大声で叫んで少しすっきりとしたリューイは、ミュウに謝りました。
「ミュウ、ごめんね。おかあさんが酷いこと言って。ミュウは全然、臭くないよ。本当にごめんね。」
リューイがミュウを抱きしめると、ミュウはリューイに鼻先を押し付けました。
――リューイが優しくしてくれるから、気にしてないよ。
ミュウはグルグルと喉を鳴らしました。
――それにしても…
ミュウの首を抱いたまま、リューイは思いました。
――お母さんってときどき、すごくミュウに意地悪なんだよな。なんでだろ?この前、ミュウが羽布団をビリビリにしたからかな?でも、だからってあんな言い方しなくても…ミュウは全然、臭くないのに!
そこまで考えて、リューイはふとある疑問に突き当たりました。
――もしかして、僕はいつもミュウと一緒にいるから鼻が慣れてしまって、ドラゴンの匂いがわからなくなっているのかな?本当はミュウって臭いのかな?
考えているうちに、リューイはどんどん不安になってきました。
――もしかして、僕もドラゴン臭くなっているのかな?女の子たちにも、実はドラゴン臭いって思われているのかな?だったら、どうしよう?ドラゴン臭いって…?ドラゴン臭いって…どんな匂い?
好奇心を抑え切れなくなったリューイは、ミュウに気付かれないように、そっと首元の匂いを嗅いでみました。
しかし、それにはさすがのミュウも気付いたようで、ぷいっと立ち上がるとベッドの下の潜ってしまいました。
あら、まあ…
おしまい。
あとがき
結局、リューイにはドラゴンの匂いがわかりませんでした。
たぶん、ミュウは無臭だと思いますよ。
ワンちゃんや猫ちゃんと一緒に寝ている皆さん、お宅の子たちはどんな匂いですか?
うちの子はパンケーキの匂いがします。
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