――女の子でもいれば、お人形さんのベッドでもあったかもしれないけど… あいにく、うちは男の子ばかりだったし…
おばあちゃんはクローゼットの中を漁りながら、自分が子供の頃、使っていた人形の家を思い出しました。
――あれがあれば、キキちゃんやリンちゃんがどんなに喜んだかしれないのに!
おばあちゃんが使っていた人形の家は、おばあちゃんのお父さんが手作りしてくれたものでした。箱型の人形の家は蝶番で真ん中から左右に開くようになっていました。中にはテーブル、イス、ベッド、食器棚など一揃いの家具が備えつけられていました。どれも素朴で簡単な造りではありましたが、おばあちゃんにとっては世界で一番ステキな宝物でした。
子供だったおばあちゃんは、お父さんが暖炉の前で小さな木の板からテーブルや椅子を作り出すのを飽きずに眺めていたものです。
お父さんはテーブルの天板の小さな穴を開け、キュッキュッと音を立てながら、穴の中にテーブルの脚を差し込みました。お父さんの手にかかれば、人形のテーブルや椅子もあっという間に完成です。
――あの人形の家は本当に素晴らしかったわ。いつの間にか、なくなってしてしまったけど。
おばあちゃんは残念がりました。内気で引っ込み思案だったおばあちゃんは、どちらかというと外で遊ぶよりも、一人で静かに本を読んだり、人形遊びをしたりするほうが好きでした。
おばあちゃんは残念がりました。内気で引っ込み思案だったおばあちゃんは、どちらかというと外で遊ぶよりも、一人で静かに本を読んだり、人形遊びをしたりするほうが好きでした。
大勢で遊ぶのも嫌いではありませんでしたが、近所には男の子しかいなかったせいで、最初は楽しく遊んでいても、最後には必ず蛇を振り回したり、カエルを捕まえるなどの乱暴な遊びになるのが嫌でした。
そんなおばあちゃんの為に、お父さんは人形の家を作ってくれました。人形の家のお蔭で、おばあちゃんは何時間でも一人で飽きずに遊ぶことができました。
お父さんは仕事から帰ってくると、いつも「私の可愛いおチビちゃん、今日は何をしていたのかな」と言いながらおばあちゃんを抱き上げて、頬にキスをしてくれました。
そして、夕食の準備が出来るまで、おばあちゃんの人形遊びに付き合ってくれながら、一日の出来事を面白可笑しく話してくれるのでした。
例えば、ラミーさんが昨日、奥さんと喧嘩をしたせいで、お弁当箱には食パン一斤しか入っていなかったこと。食パンをお弁当箱にギュウギュウに詰め込んでいたせいで、蓋を開けた途端、食パンが飛び出してきたこと。お父さんがいつもお昼を食べに行く食堂の看板猫が、お客さんから分けてもらったパンの欠片を雀と仲良く分け合って食べることなどなど。どんな些細な出来事でも、お父さんにかかると世界物語全集よりもワクワクするお話に変わるのでした。
人形の服やアクセサリー、人形の家のカーテン、クッション、ベッドリネンなどはおばあちゃんのお母さんが作ってくれました。これもまた素朴でシンプルな物ばかりでしたが、よく見るとお人形さんのリボンとおばあちゃんのリボンがお揃いだったり、お人形さんの部屋のカーテンやクッションがおばあちゃんの部屋と同じだったりと、小さな可愛らしい工夫があちこちに隠されていました。お母さんは小さな切れ端から、ステキな小物を作り出す天才でした。
思うに、物を大切にする精神は、その頃に養われたような気がします。おばあちゃんのお母さんはどんな小さな物でも捨てたりせずに、上手に活用する人でした。お菓子の作り方や端切れの活用方法を教えてくれたのもお母さんでした。
その頃は遊びの延長としか思っていませんでしたが、大人になってから、あれは人生を通して役に立つ生活の知恵を教えてくれていたのだと気が付きました。
今は大好きな両親も天国に行ってしまい、もう会うことはできませんが、それらはおばあちゃんにとってはかけがえのない大切な思い出でした。
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